この世はもうすぐ終わるらしい。 どうも月がふらふらと地球に向かって落ち始めていて、 徐々に大きくなる月に気付きはじめた時には全てが手遅れ、落下軌道にばっちり乗ってしまっているって話だった。 テレビでは世界中の人が連日のように原因だの責任だの逃げるだの祈るだの言っている。それでも、テレビが放映されているというのが日本人というか日本の狂っているところだろう。 僕はテレビを消して窓の外を眺めた。 月はだいぶ大きくなっている、あと1週間だそうだ。 なんてつまらない人生だろう。 たまたま足を骨折して入院している真っ最中に世界が終わるなんて。 思えば殺風景な人生だった。世界が終わるとなれば、誰も俺の病室までは来ないというのがそれを物語っている。 恋人もいない、友達もほとんどいない。 そもそも、誰かを好きになったことがあるのか自分でも疑問なのだ。 僕なんかに好かれて得するような人間が一人でもいるとは思えないけれど。
自分の置かれている状況に腹が立った僕は病室を抜け出し、車椅子で町に出てみた 町の中は思ったより静かだが、結構人出があった。 電車もまだ動いているらしい、すばらしきかな日本人と言ったところか。 僕はだんだんいらついてきた。 なんだって世界が終わるのに普通に生活しているのか。 世界はどうせ終わりだ、そう思った僕は普段は絶対にできないことをしようと思った。とはいえ、したいことも特にない僕としては人肉食ったりするようなアンチモラルをわざわざやることもないので、さしあたり近くの女に「やらせろ」と声をかけてみた。
この暑い中セーターなんぞ着込んでいるその女は一瞬何を言われたのかわからなかったのかきょとんとしていたがあごに手を当て考えるしぐさをした後、こう言った。 「私のこと、殺してくれるならいいわよ」 「それくらいならお安い御用だ」 実際、1週間で死んでしまうなら殺したってどうという事もないだろう。 というわけでラブホテルに直行してみるとフロントに鍵が置いてある、「ご自由に」ということだと解釈して勝手に適当な部屋に入らせてもらう。 部屋を空けるとべっとりと血が壁に塗られていて胴体が切断された死体がゴロリと横たわっていた。 それを見た女が吐いてしまったので、僕はそのままベッドに押し倒してヤった。 あんまり気持ちよくなかったが、まぁ満足した。 「・・・この人でなし!」 と、女が叫んできたので 「ちゃんと約束は守るよ」 と言ってにこやかに女の体を解体した。 自分で言っておいて抵抗しやがるのでてこずったが何とか殺すことができて満足した。
さて、セックスもできたし、人も殺せた。 この上で何かやり残した世紀末的な行動と言うと、何かあるだろうか。 僕は考えた。 考えている間に5人殺して、そのうち3人を犯した。 そして6人目のターゲットを物色していると女に出会った。 女は左手に男の首を手に持っていた。 「どうしたんだい?」 僕は思わず聞いてしまった。 首を持ち歩くなんて尋常ではないからだ。 「私の恋人だった男よ、おまえとは最後の日を迎えたくないと言い出したから私の元で一足先に最後の日を迎えさせてやったの」 そう、女はへらへら笑いながら言った。 僕は思った、なんて身勝手な女だ。 この女なら僕みたいな最低な男に好かれても構わないだろうと。 僕は言った。 「それなら、僕と一緒に最後の日を迎えませんか?君となら一緒にいられる気がする」 それを聞いた彼女は憐れむように嘲笑した。 「その言葉を聞いたのはあなたで3人目よ、この左手にいる男もそうだったわ」
それから僕達は一緒に暴れまわった。 通行人から眼球をくりぬいて開いた穴から脳みそを取り出してみたり、肉屋に並べられていた肉に人肉を混ぜてみたり、いつの間にか結成された自警団の目をかいくぐっては散々なことをした。 実際、やっていたことはつまらない作業の連続で僕にしてみたらどうでもいいことだったのだが、彼女と同じ時間を過ごしているという事実が僕を興奮させていた。
そして1週間が過ぎ、恐ろしいほど大きくなった月を見ながら僕達は森の中へ夕日が沈むのを見ていた。 最後の夕日を見ながら僕は彼女に語りかけた。 「ねぇ、僕は君と出会えて本当に幸せだったと思うよ」 「私も幸せに思うわ、あなたに出会えて本当によかった」 そういって笑いあった二人は、まるで遊びつかれた子供のようにどちらからともなく眠りについたのでした。
めでたしめでたし。
テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学
|